ビブリオゲームズBlog

自作ボードゲームや遊んだボードゲームのことを書いていきます

BAG-GAI デザイナーズノート

前置き

 

   Biblio Games古瀬 和人と申します。この記事はBoard Game Design Advent Calendar 2016  20日目の記事となります。遅れてしまって申し訳ありません。

 今回の記事の内容はBAG-GAIという東京ドイツゲーム賞に送ったゲームのデザイナーズノートになります。(元々は”そのルールは誰に味方するか?”というタイトルでフィードバック当たりの事を書こうとしたのですが、どうしても考えがまとまりませんでした。)

 ゲームをどういう流れで、どんなことを考えて作ったかを覚えている限り書いてみました。テストプレイに入ると数値等のゲームをプレイしないとわからないことが圧倒的に増えるのでアイディア出し から セルフテストプレイまでを書いていきます。

 


第2回東京ドイツゲーム賞2次審査 - BAG-GAI

 

1 頭をアイディアを思いつく状態にしよう

 僕は去年からtwitterのタイムラインを見ながらアイディアを出すという事をやっていました。理由はしのうじょうさんの4日目の記事でも紹介されているしりとりを使った方法とほぼ同じです。ゲームと掛け合わせるための言葉を見つけるためです。


新しいアイデアのつくり方 | 高橋 晋平 | TEDxTokyo

 

しりとりとに比べてよいと思う部分は

①モチーフ的なお題だけでなく、システム的、体験的なお題にも出会うことができる

②そのまま軽くアウトプットできる。(パクられるリスクを気にしなければ)

 →10個に1個位人から反応が返ってきたりしてモチベーションが保てる。

 

といったところです。逆に悪い部分もあって

 ①周りの人間が興味を持っていることしかお題に出てこない。

  特にゲムマの前一か月にやると他サークルと被りまくる。

 

 やってみた結果の例が大体こんな感じですね。今回のBAG-GAIの企画はtwitterを見ている時に出たものではありませんでした。でも、これをしていた当時とやめてしまった今では頭のコンディションがかなり違うのを感じています。インプットしようとする意欲やアウトプットのスムーズさには繋がったんじゃないかなぁと思います。

2.課題を設定しよう

 このゲームはどんなゲームなのか?そのイメージを作者が持っていないとゲームはどっちつかずの中途半端なものになってしまいます。ゲームの課題≒ゲームの立ち位置を早い段階で決めることは重要です。

 BAG-GAIの場合、”1990年代らしい競りゲームを現代の日本でどうプロデュースするか?”という課題を設定しました。

 その上で僕が企画したのが「2段階の競り(欲しい範囲の選択→値段の決定)」でした。主な理由は以下の通り。

 

 何を考えるべきゲームなのか? はしっかりと提示する

  競りゲーは難しいとよく言われるます。でも僕は必ずしもこれが正しいとは思いません。実際は難しいというよりは何を考えるべきかをカジュアルプレーヤーにうまく説明できてないように思います。

 多くの競りゲーは「いくらで買う?」という質問をいきなり人に投げかけている。しかし、その質問に答えるには

 

①.最終的にどういう形の勝ちを目指すのか

②.その上で自分は何が欲しいのか?

③.対戦相手はどうか?

 

 を考えなければいけません。これは少し不親切ではないでしょうか?

 僕はこの3つのステップを考えていく所に1990年代的なゲームの良さがあると思います。相手の思惑を考えることを重視し、純粋にそれを楽しむようなイメージです。 ボードゲームを遊ぶ人が増えてきている以上、この思考の流れを丁寧に説明するゲームデザインやインスト技術には価値はあるのではないでしょうか?

 

 得点計算をシンプルな物にして①をわかりやすくした上で

 ・まずは②に該当する「何が欲しいの?」という質問をぶつける。

 ・対戦相手と範囲が被っている事を意識させ、③の相手の思惑を意識させる。

 

 と流れを2段階に分けてやれば、少しは伝わる人が多くなるのではと考えました。

 

 

 でも、うまくやろうとすると難しいゲームを目指したい

  個人的な好みの話になるが、やっぱりゲーマーがやって楽しいと思えるゲームを作りたい。(なぜなら作者である僕は何度もこのゲームをプレイしなければならないからだ。)そこでゲーマーが自然と2段階の競りを一度に考えるようにした。

  BAG-GAIは範囲を選ぶ状態から相手の思惑(や金銭状態)を考える事が十分にできるように、そしてそれが楽しくなるように複雑さを設定しています。難しいことが考えられるプレーヤーには難しいことを考えてもらいましょう。

 

 

 体験としての楽しさを強調する

  お買い物感が楽しい”という感想を街コロやドミニオンといったゲームをプレイしたプレーヤーからよく聞きます。他の作者とゲーム作りの話をする時も”お買い物感を意識してみた”という話が何度か出たことがあったので少なくとも僕の周りだけの現象ではないらしい。

 

  ところで、多くの競りゲーのモチーフである競り(オークション)は言ってしまえば特別なお買い物です。実はお買い物感を感じるゲームとしてのポテンシャルはあるんじゃないか?競り勝った人に『お金払いすぎたかなぁ』とネガティブな事を言わせてる場合じゃないんじゃないか?

 実際、かなりライトユーザー向けな競りゲームである絨毯商人でなら”お買い物してる感じが楽しい”という感想を得て連続でプレーされた状態を何度か見たことがある。まぁ、これはさすがに局所的な現象な気もするけれど。

 

  握り競りを『買えた、買えなかった』を一喜一憂する遊びとしてとらえて、わかりやすい魅力のあるゲームとして表現できないだろうか?

 

3.ルールの影響を考えよう

  上に書いた3つの理由から ①順番に自分の欲しい範囲を選ぶ→②同時に一個当たりの値段を宣言する という大枠ができた。しかしセルフテストプレイにから抜け出すには解決すべき問題が2つあった。 その一つがお金の流れである。選択肢を十分に用意させるためにはプレーヤーが使ったお金を即座にプレーヤーに返す必要があった。さて誰にどうやって渡すべきだろう?

 

 多くの競りゲームと同じように、このゲームでは競り勝った人が商品を自分で宣言した値段で買う事でゲームが進んでいく。ネガティブな表現をすれば”競り勝って商品を手に入れた”という点において勝利に近づいたプレーヤーだけに”資金が減る”というペナルティーを与えている。結果、このラウンドで競り勝ったプレーヤーは次のラウンド以降に使える資金が少なくなる。(=次のラウンドで競り勝ちにくくなる)

 

  この流れは”物を競り落とす”という体験をある程度満遍なく経験させる事を保証してくれる。その上、ペナルティーとしての気分の悪さはかなり少ない。物を買うときお金が減るのは当たり前の事だし、その値段も自分が宣言したものだからだ。”体験としての楽しさ”を課題として設定している以上この流れは残したい。

 

 もし競り勝った人にもお金をあげてしまったらどうなるだろう? おそらく複数ラウンドに渡って一番良い商品を取ってしまう状態になってしまう。そういう考えから、競り負けた人に味方することでゲームの均衡状態を保つ事にした。

 

 また、お金の渡し方は競り勝った人の払った金額を宣言した金額で買えるというルールにした。これは、①ルールや処理を単純に保つ、 ②相手の思惑を考える機会や楽しさを増やす ③範囲決定時に ”全部” を宣言するという プレーヤーがしてみたくなる手の有用度合いを上げる。 ④お金を一気に稼ぐという体験を追加できる ⑤多くの人の状態が動く(=退屈しない)といったことが理由です。

  

 あまりこだわりすぎると頭が固くなりますが、一つのルールで2つ以上の良い効果を得るのがシンプルなゲームを作る上での理想です。少なくとも一個の問題を解決して他の問題を引き起こすようなルールは採用しないようにしましょう。 

 

4.理解しやすくしよう

 もう一つ問題になりそうだったのは選択肢の多さである。 動画に映っている状態では8つの商品が並んでいるが、この時点では10個の商品が並んでいた。さて、この時点で範囲の選び方は何通りあるだろうか?(選ぶ商品の数は連続した1個以上10個以下とする)

 

 …55通りである。これを一々見ていたら大変なことになります。単純に並べる数を減らしてやるのがセオリーですが、”一気にたくさん競り落とす”という体験をさせるためにも 多様性を保つためにもあまり数を減らしたくない所です。

 

 そこで、魅力的な部分をを使って見えやすくする事にした。かなり昔の記事にも少しだけ書いたが人間は5~9個の塊でものを認識している。そのため、”同じ色の塊” や”大きい数字の塊”は自然と探し出すことができます。ゲームの得点計算としてセットコレクション や マジョリティー等同じ色を固めて取れることに魅力を感じる方式を採用することで状況を認識しやすいようにしてみました。

 

 最終的にはテストプレイの結果、ゲームの感覚を掴めていない1ラウンド目から商品を10個並べた状態でゲームをすると事故る確率が上がるということが分かったため商品の数を8個まで減らしています(選択肢で言えば36択ですね)。しかし、前のラウンドで場に残ったお金を置くBANKという場所を両端につけ、場所が10か所になる状況は死守しています。

 

 今回のように塊を意識させる事をゲームデザインのタイミングで考えることは非常に稀である。ただ、手札枚数など選択肢の数を設定する上でこの5~9個の塊という感覚は有用性が高いと思っている。

 例えばプレイしやすいゲームを作りたいのであれば、塊を5つ以内に抑えれば良いだろう。(僕の個人的な経験則的には6ぐらいまでなら大丈夫っぽい)また、逆に10択を十分に超える選択肢や要素を盛り込めば状況を5~9個の塊にして認識するところから楽しむゲームを作ることもおそらく可能だと思います。

 

最後に

 長い文章となりましたが、最後までお目通しいただきありがとうございました。

 今回のBAG-GAIはかなり安産でしたがそれでも最初の1プレイ目はイマイチでした。ゲームは想像したりセルフテストプレイで想定した通りには動きません。今回の場合だと、思った以上にお金を出し渋る流れになったり、展開が単調だったり。

 

 いろいろ書いてきましたが一番重要なのは 動く状態になったら人に見せることです。おそらく最初の一回は落ち込むことになるでしょうが、それは必要な一回です。色々考えて、何度も試して面白いゲームが出していけたらなと感じております。