ビブリオゲームズBlog

自作ボードゲームや遊んだボードゲームのことを書いていきます

2章”目標”関連のメカニクス

 
アドベントカレンダーから来られた方へ>
はじめまして、古瀬と申します。
この記事はBoardGameDesignアドベントカレンダー23日目の記事として書かれています。
 
あたりの記事を書いております。
 
 今回の記事は 私が今年から作業を開始したゲームメカニクスの分類の一部です。
範囲はゲーム中にプレーヤーの指針となる目標を作るためのメカニクスとなります。
分類自体の目的、方針に関しては目的と方針を、(まだ、大部分が執筆中ですが)目次に関しては暫定的な目次をご覧ください。
 
 また、ここは違うんじゃないか? とか こういう種類もあるのではないか等のご意見ありましたら@Biblio_Gamesまでお願いいたします。
 
<序文>
”ゲームには選択肢が必要”とよく言われますが 目標がなければ、その選択肢を選ぶ基準がありません。ではプレーヤーの目標とはどのように作ればよいのでしょうか
 
目標はより分解すると
①スケジュール(いつまでに) ②課題内容(どのような課題を) ③どれぐらい 達成するのか? に分解する事ができます。
それに④与えられる報酬/罰を組み合わせてプレーヤーに課題として提示し、
何をすればいいかはわかるが 最適な選択とその順序はわからない という状態を作る事がゲームデザイナーのするべきこととなります
 
③どれぐらいに関してはただの数値、④に関しては少々ゲーム特有の部分も多いのでですので、この章では①と②、そして⑤課題の提示方法について記述します。
今回のアドベントカレンダーの記事では①スケジュールの部分を列挙し、その特徴について掘り下げていきます。
 
2章-1スケジュール(SCH)
 
 
SCH1”特定期限”までのスケジュール
 
ゲームにおいて目標はターゲットとなる人物にとって
条件1:簡単に理解できるが
条件2:最適な長期的な計画の立案をは難しい
 
といった状態になる事が望ましい。
これを達成する最も単純な方法は 締め切りの違う課題を(認識できる範囲で)複数個並べる事” です。
 
ばらばらの締め切りがある複数の課題は
 ・マイルストーンとしてプレーヤーの理解を促す。
 ・別の魅力として人を誘惑し、悩ませる
 
といった相反する作用を持ち得ます。
 
優先して考える”目標”切り替わる事で考える事が切り替わる事ゲームにおいては重要です。
ゲームの流れは【1-2 進行(現在下書き中)】にも記載した通り、フェーズやターンといった区切りを繰り返していくことで進んでいきますが、ゲーム体験(≒感情)は繰り返しにならないようにしましょう。
幸いなことにこれは慣れればそこまで難しい事ではありません。
例えば、私は今まさに”23日にこの記事を良い形で公開する”という大目標を終えようとしている所です。12月中、私は毎日他の人が書いた記事も見つつ、自分の記事も進めるという繰り返しの中で過ごしてきました。
 
さて、私は淡々と感情の起伏無くこの記事を書きあげたでしょうか?
否。今週の目標を立て、いろんな部分を少しずつ進めて気分を変えながら作業できるようにしてきましたし、
それ以上に”ブラックフライデーセールは今週だけ!”という魅力的な誘惑で進捗が乱れ、やばいと焦った週もありました。
この”今週の目標”や”ブラックフライデーセール”のようなものを意図的に作り、プレーヤーの前に並べればよいのです。
 
ゲーム終了時以外のタイミングが無いことは正直あまりお勧めしません。
ゲーム時間が30分であれば核となるアイディアにインパクトがあればゲーム終了時までの目標1本だけでも持たせることもぎりぎり可能ですが
それ以上となると(最初に設定した、あるいは与えられた)目標に向かって淡々と歩を進めるだけの体験になってしまっているものが多いように感じます。
 
No 名前
SCH1-1 ゲーム終了時までに
定義
ゲームの終了時までにやればよい課題です。
アクションやタイルについている単純な得点や ゲーム終了時にしか得点化しない大目標がこのカテゴリーに属します
 
特徴
最も単純な締め切り。
ゲーム終了時までに達成するば良い目標。そのタイミング上、得られる報酬(あるいは罰)は勝利点です。
 
得られる報酬は大きく分けて3つに分類できます。
 
①単純な得点
 ※別のリソースに変換できたり、不労所得や新たなアクションの実行の条件となる場合、これに含みません
 ※後述する【SCH2-1】早取りや【SCH3-2】縮小に含まれるものは含みません
 
 このタイプの資源変換の完全な終点であり、特別面白さは生みません。
 ただ、わかりやすいため、「どの目標を達成するか」の基準にはなりえます。
 
②ゲームを通しての大目標
 【SCH1-2】と共通している部分も多いですが、
 非公開の情報による得点や多様な得点計算など、誰が勝っているかを曖昧にする効果はこちらの方が大きいです。
 
③最終ターンの細かな点数
 いわゆる資源5個で1点、使わなかったカード1枚1点等という細かな点数
 「最終ターンで得点する方法がないため実質全く意味がない」という状態を防ぐ程度のものです。正直、勝敗にはほぼ関与しません。
 得点幅が小さい場合等は無理に点数をつけず、タイブレークの条件にしたり、何もせず勝利を分かち合うようにしましょう
 
ゲーム例
多数
 
 
No 名前
SCH1-2 (とある)ラウンド終了時までに
定義
中間決算あるいはラウンド終了時の決算での賞罰がこれにあたります。
 
ゲーム終了時にも同じ条件での賞罰がある場合、【SCH1-1 ゲーム終了時までに】には含めず、こちらに属するものとします。 
 
特徴
<中間決算、ラウンド終了時の決算>
 最終ラウンドと同じ得点計算を前もってする事でゲームの内容、流れを掴ませる事ができます。
 
<毎回ではないラウンド終了時の決算>
また、毎ラウンドではない場合、各ラウンドの優先順位に波を作る事ができます。
 
 例えば農業や、蛮族からの都市の防衛をテーマにしたゲームにはXラウンドに1回、資源を払えなければ失点というルールが含まれているものがあります。このようなゲームでは支払いのあるラウンドと無いラウンドで該当する資源の獲得優先度を変える事ができます。
 
ゲーム例
多数
 
No 名前
SCH1-3 不労所得の増加(なる早で)
定義
各ラウンド開始時、あるいは終了時の不労所得(アクションを消費しない資源の算出)の増加がこれにあたります 
 
特徴
 上記2つと違い、”いつ”というタイミングがゲームからは指示されていません。
 しかし、『ラウンド開始時小麦が一個もらえる』という効果を持つ建物は”できる限り早くこの建物を建てよ”というスケジュール感の提示にほかなりません。
 
 大抵の場合、他の不労所得(場合によっては、1回限りの資源獲得や勝利点)と並べられ、どれをどの順番で獲得するかを判断させる形をとります。
 
 
ゲーム例
多数
 
No 名前
op-SCH1 とあるタイミングの後に
定義
 特定のタイミングより後に目標の達成をするべき という課題です。
単体ではあまり使わず、【SCH1-2 とあるラウンドまでに】【SCH1-3不労所得の獲得】に組み込む形の実装が多いオプションです。
 
特徴
非常に稀ではありますが,
資源変換や建物のグレードアップがあるゲームの場合、”中間決算後に”行うべき目標が出る事があります。
 
ゲーム例
 このゲームでは資源を払って、建物をグレードアップしていきます。
ゲーム開始時に見えているボーナスによっては 得点が入るラウンドになってから建物のアップグレードをした方が良いこともあります。
 
 また、このゲームでは アップグレードする際、下級の建物は自分のボードに戻ってくるのですが、これにより次ラウンドの収入フェイズで手に入る資源が減ってしまう事があります。
 
 
SCH2 ”相手”依存のスケジュール
 
 仕事でもなんでも、一人ですべてをコントロールできず、他人の進捗に依存する場合、スケジュール管理の難易度は高くなります。
その人物が協力的でなく、自分のスケジュール予定を共有してくれない場合は猶更です。
 
 あ対戦相手という(少なくとも1位を目指すという点では)”利害の一致しない人物”をスケジュールに介入させる事は
計画や(先を越された後の)再設定の重要度をあげると共に勝ち負けの説得力を上げてくれることでしょう
 
No 名前
SCH2-1 相手より早く
定義
所謂早取り。
最もきつい条件だと最も早く目標を達成した者だけが恩恵を受ける事ができます。
2人目以降に目標の達成を許す場合、コストが高くなったり、効果(勝利点)が低くなったりします。
 
特徴
非常に多くのゲームで適応されています。おそらくその理由の一つは ”他人と欲しいものが被らない事”という指針を与える事にもなるからでしょう。1人での徒競走で1位になる事はただ完走するだけで達成することができます。
 また、最近では人数を増やしても機能するように設定する事ができるためか、ソロプレイ感の強くなりがちなジャンルに添えられることも多い印象です。
 
注意点
 両立しづらい早取りの目標を複数並べる場合、並べる目標の数はプレーヤー人数とずらした方が良い場合が多いです。
 (例えば「赤い建物をを4つ建てる」と「青い建物を4つ建てる」等の複数の目標を同時に進める事ができる手段のない目標の場合、)人数と同じだと単に1個ずつ1人が取って終わる展開になりがちです。
 また、先手有利にならないようにきをつけましょう。
 
ゲーム例
多数
関係する
関連するメカニクス⇒川、ワーカープレースメント(狭義) etc
 
 
 
SCH3 順番依存
 
 ゲーム中の選択とは何をするか?だけではありません。
極端な話、「カードを1枚使って1枚引く。山札が切れても手札がなくなるまでゲームを行う」というタイプのゲームの場合、何をするか?は引き運によって決まってしまう。
 
 「どの順番でアクションを行うか?」に意味を持たせる という意識はゲームを組み立てるうえで非常に重要なものとなります
 
No 名前
SCH3-1 アクション拡張
定義
〇〇をする前に××を行っておくと〇〇のアクションの効果やコストが改善する。
 
というメカニクスです。
例えば、『工場を建設してから生産を行うと生み出される商品数が増える』といった実行すべき順番を示唆するためのものです。
 
特徴
 このメカニズムを使うことでプレーヤーに アクションの順番を考えさせることができます。
前述の例で言えば、工場を建設してから生産を行いたいのであって生産をしてから工場を作りたいのではないのです。
 
 このメカニズムを使う上での注意点は 良い順番を一本道にせず円環を描くように設計する事です。
つまりゲーム全体で 絶対にこの順番で行えばいい  という必勝法があってはあまり考えどころを生みません。
 
 わかりやすさを重視して、最終的な大きな勝利点(及び最終得点計算の要素)ぐらいは終端となっても構わないと思いますが、それ以外に関しては
 アクションA⇒アクションB
 アクションB⇒アクションC
 アクションC⇒アクションA
のようにどのアクションにも それよりも先にやりたいもの とそれより後にやりたいものが少なくとも1つ存在するようにするとよいでしょう。
 
チェックポイントとして
 ・アクションの順序を結果が同じになってしまっていないか?
 ・アクションの順番が確定になってしまっていないか?
 
の2つが満たされているか確認すると良いでしょう。
 
ゲーム例
多数
 
No 名前
SCH3-2 アクション縮小(できれば使い切った後に)
定義
 【SCH3-1 アクション拡張】や【SCH4-1手番圧縮】の逆。
ゲーム中に手に入れたアクション効率やアクションの権利等を放棄する事で報酬を得るという目標。
 
特徴
 その特性上、終盤に使う事が多いため、大抵得られる報酬は勝利点や大きな勝利点を獲得するのに必要なもの(マジョリティーで点数が得られるところに駒を置く権利等)になる傾向にあります。
 
 単純に実装してしまうとできる限り遅くすれば良い(≒得られるものが勝利点である場合、最終ラウンドにすればよい)事になってしまうため他の条件と組み合わせる事が必須といえます。
 
 具体的には 1ラウンドにできるアクションの回数が限られているようにするか、 【SCH2-1 相手より早く】と組み合わせる事となります。
 
ゲーム例
 野菜を育てるのに必要な畑を捨てる事で広義の得点トラックを進めるアクションがあります。
ワーカープレースメントであるこのゲームでは、このタイプの効果は1ラウンドに1度しか使えないため残っているターンがあってもこのアクションを実行する意味はあります。(大抵行った方が良いです)
 また、このアクションがある事で、畑を新たに獲得する選択肢の存在意義が比較的終盤まで残っています。
 
事例 ナヴェガドール(恩恵アクション)
 このゲームのアクションの一つ”恩恵”では(工場、造船所等の要素一個当たり等の)基礎点を挙げるトークンを得る事ができます。得点のシステム上この取得は勝つために必須となっています。しかし、そのコストとして代わりに貴重な資源である労働者を返さなければなりません。労働者は後述する【SCH4手番圧縮】の要であるため、できる事ならば後でこのアクションを実行したいこととなります。
 しかし、このタイルは種類ごとに限られた数しかありません。同じ種類のトークンを欲しがっている他のプレーヤーよりは早くこのアクションを実行する必要があります。
 
SCH4 手番圧縮
 
 多くのボードゲームでは、皆が同じターン数を行って誰が最も高い点数を取得するかを競います。従って他人が2ターンかけてやっている事を1ターンで行うことができればその分勝負を大きく有利に進める事ができます。所謂手番圧縮という考え方です。
 
No 名前
SCH4-1 手番圧縮(まとめて一気に)
定義
資源を多く用意してからアクションをすることにより手番(や資源)を節約できる という目標設定です。
簡単に言えば
 
手順A
①資源獲得⇒②資源の変換(1回分)⇒③資源獲得⇒④資源の変換(1回分)
だと4手番かかってしまいますが
 
手順B
①資源獲得⇒②資源獲得⇒③資源の変換(2回分)
なら3手番で行うことができます。この節約した1手番を使って得点をしたり相手を攻撃したりして、勝利に繋げるという工夫点をゲームに付与する事ができます。
 
手順Bを目指す事をプレーヤーに推奨するメカニクスです
特徴
 このスケジュールを使う場合に注意しなければならない点は
何も工夫無く使うと”できる限りためてからまとめて変換する”が最適解になってしまう点である。
 
 この問題を解決するにはどうすればよいでしょうか?
最も一般的だと思われる対応は上で説明した”SCH2相手より早く”と組み合わせる事です。
 
上の手順Aと手順Bをもう一度見比べてみてください。
前述のとおり、手順Bは確かに3手番で2回分の資源変換を終わらせており、最終的な効率は良いです。
しかし、手順Aは2手目に最初の資源変換を終えており、これは手順Bより1手早いものとなります。
 
資源を払って手に入れるものが後ほど価値が低くなる(あるいはコストが増える、あるいは多くの種類1枚しかないカードの中から早いもの順で選ぶ)場合この1手番の遅さが仇となる可能性を作者は仕込むことができます。
 
また、あまりに強力な手番圧縮が起こらないように保持できる資源に上限をつける例もよく見られます。
 
ゲーム例
 
事例 ブラス
 ブラスの紡績所は同時にいくつも出荷する事で手番を圧縮する事ができます
ただし、紡績業には需要があり、それを超えるとそもそも出荷ができなくなる(可能性がある)事がプレーヤーに提示されています。
つまり紡績業に力を入れるプレーヤーはできる限り溜めて①手番を圧縮したいが、②競合他社となったプレーヤーよりは早く売りぬけたいという感情を持つ事となります。
 
また、
・出荷をせずに資金を手に入れないことは資金面で厳しい(そのために借金をすることに手番や未来の収入を失うことになる)
・【SCH1-2中間】 ゲーム前半が終わるまでに出荷しなければ得点の機会を損失することになる
という事も考える事になります。
 
 多くの労働者を雇う事でアクション(植民地の獲得、建物の建設)を複数回実行する事ができます。
ただし、
・植民地や建物は早く買うほど安い。
・労働者を増やすには大抵資金が必要
・労働者を失うことで手に入れる恩寵タイルは勝つうえで必須
 
 
典型的な『資源の上限』を用いている例。
 このゲームでは、カードを使って資源(スパイス)の変換を行うが材料となる宝石を2セット以上持っていると効率よく資源を増やしたり、ランクアップさせることができる。ただし、スパイスを持てる量の上限が決まっているため、カードごとの相性や順序を考える事となります。
 
 
改変履歴
2021.12.23 公開